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アーティストとエンジニア ~ 石川嘉久氏インタビュー

取材・文: 伊藤大輔

ライブハウスで培ったコミュニケーション重視のエンジニアリング

CapturePROFILE:石川嘉久
ベースメント所属エンジニアとしてライブハウスでのオペレーターを手掛けたのちに独立。KEMURI、マキシマム ザ ホルモン、AA=といったアグレッシブかつラウドなサウンドのエンジニアリングを得意とする。

 

 
ライブサウンドの善し悪しには、まずアーティストの個性豊かな演奏、それを確実に捉えるための優れた音響機材とそれを扱いこなすPAエンジニア、これら両者の密な関係性が欠かせない。ライブは、アーティストが演奏しながら聴いているステージ上のサウンド、私たちが普段から耳にしている客席のサウンドがあり、これらはライブ会場の形状、客入りなどに応じて刻一刻と変化する。そのなかでアーティストとエンジニアが試行錯誤し、その日のベストなサウンドを作り出していく。ある意味、優れたライブサウンドとは、アーティストとエンジニアの連携によって生まれるといってもいいかもしれない。ここで紹介するエンジニアの石川嘉久氏は、国内スカパンクバンドの代表格であるKEMURIのライブエンジニアリングを担当している。ここでは石川氏のライブサウンドへの考え方、エンジニアリングについて考察していきたい。

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KEMURIは1995年に結成、当時のスカコア/パンクを一大ムーヴメントを牽引する存在であり、2007年に一旦は解散したものの、2012年に再結成をアナウンスし、現在も精力的に活動を続けている。石川氏がKEMURIのライブサウンドに携わるようになったのはおよそ2年前。前任のチーフオペレーターであった岸邦彦氏に代わり、ツアーのエンジニアとして関わるようになったという。岸氏と石川氏は以前、同じ会社に所属するエンジニアとしてお互いにライブハウスの現場で経験を積んでいた。また、KEMURIのツアーも基本的にライブハウスが主体であるため、岸氏から石川氏へ仕事をバトンタッチする際も「自分のやり方で好きにやってほしい」との一言であったという。

石川氏がKEMURIのライブエンジニアリングを手掛けはじめた頃について「すでに完成されている彼らのライブサウンドに、自分をどう当てはめるかを考えた」と言う。KEMURIは伊藤ふみお(vo)、津田紀昭(bass)、平谷庄至(drum)、田中幸彦(guitar)に加えて、コバヤシケン(sax)、河村光博(trumpet)、須賀裕之(trombone)の三管を擁した大所帯な編成。管楽器とともに性急なディストーションギターが共存するスカパンク独特のサウンド特性がある。石川氏は当初「独特のステージのメンバー配置に試行錯誤した」と言う。一般的に管楽器がいるバンドのステージポジションは、ボーカルと同じくステージ手前の左右いずれかにホーンが位置することが多い。KEMURIの場合、ボーカルの真後ろに三人の管楽器がいて、その回りをドラム、ギター、ベースが囲むという特殊なメンバー配置になる(図参照)。

「ホーンのメロディはKEMURIの中心でありながら、ステージ上の立ち位置も中心なので、まわりの楽器の影響を受けやすい状況でした。特にライブハウスのステージの真ん中は音の渦。何の対策もせずにミキサーでホーンのフェーダーを上げるとハウってしまいます。そんな状況のなか、ホーンの音をどうやってクリアに出せるかが悩みでした。ホーン隊のウェッジモニターの角度はもちろん、ボーカルのモニター位置、ホーン隊のマイクポジションと同一線上にギターアンプとベースアンプを設置したりと、試行錯誤をしながらホーンへの音のカブりを減らしていきました」

ここでひとつ具体例を見ていこう。2016年1月30日にKEMURI 20th Anniversary Tour 「F」のツアーファイナルがZepp東京で開催された。ステージは石川氏が先述したようにホーン隊の位置、ボーカルのウェッジモニターの角度に工夫が見られる。当日のインプットは予備を含めて27ch。そのうちの18chでSHUREのマイクを使用していた。

「できるだけ同じメーカーのマイクで揃えることで、自分のなかでの音のスピード感が合い、オペレートがしやすくなります。SHUREのマイクは抜群の安定感があるんですよね。特に中規模、小規模のライブハウスは温度や湿度の変化も激しいので、マイクによっては特性がガラっと変わってしまうこともあります。そういった使用する環境でもSHUREのマイクは影響が少なく、安定しています。頑丈で壊れにくいし、もしツアー先で壊れたとしても、どこでも代わりのマイクが手に入る。これらが僕がツアーにSHUREのマイクを持ち込んでいる理由ですね。やっぱり、全国どこのライブハウスに行ってもSHUREのマイクが置いてあるというのは、万能で使いやすく、かつ壊れにくいから。絶対的な信頼感があります。僕自身、マイクはSM58SM57さえあれば、PAはできると思っています」

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KEMURIサウンドの主軸でもあるホーンセクションの収音には、3本のSHURE BETA 58Aを使用する。一般的に三管編成の場合、各楽器の特性に合わせて異なるマイクをセレクトすることも多いが、すべての管楽器をBETA 58Aで収音することで「エンジニアリングにおけるメリットがある」と説明する。

「異なる特性のマイクを複数使うと、良いところも悪いところも打ち消す部分が多くて、欲しい音が出てこない印象があるんですよね。その点、BETA 58Aを使うことで管楽器の音が塊になって出てくれるので、三管でひとつの音というとらえ方ができるんです。カブりの補正に関しても異なるマイクを使うとさらにシビアになりますが、同じBETA 58Aだとやりやすいですね」

ギターとベースに関してはUHF-Rワイヤレスシステムを使用。彼らのステージはメンバー同士が激しく動き回わるため、ワイヤレスは必須という印象がある。ボーカルの伊藤フミオとともにステージを動き回るのがホーンセクションの3人。だが、先述したようにホーン隊はワイヤードマイクを使用する。その理由は彼らがSHUREの58サウンドが好きであることに加えて、ワイアードの固定マイクならではの奏法、つまりホーンをマイクの距離を変えながらダイナミクスを付けるからだと言う。卓越した演奏力を持つKEMURIのホーン隊ならではのエピソードだ。

そんなキャリアのあるメンバーによる安定感に溢れた演奏を充分に堪能できたZepp東京でのKEMURIのパフォーマンス。まず触れるべきは伊藤フミオのパフォーマンスだ。石川氏曰く「絶対的に声がブレない」というフミオのボーカル。ケーブルを手に巻いて、ボーカルマイクのBETA 58Aと口元は常に一定の距離を保っているのが印象的だ。アグレッシブに動き回りながらも安定した声量を聴かせるのは、フミオのボーカリストとしての技量はもちろん、正確無比なマイクコントロールによる部分もあるのだろう。求心力のあるフミオのボーカルに加えて、タイトなギター&ベースとドラムのアンサンブル、そこにホーン隊が華を添える。メロディックでポジティブなKEMURIの世界観とスカパンクの攻撃的なサウンド、それらと呼応する満員の会場の一体感は、ツアーファイナルらしい大団円と呼ぶにふさわしい内容だった。客席のサウンドはラウドでダイナミックでありながらも、アンサンブルのどの音もしっかりと聴こえるバランスの良さが印象に残った。

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「リハーサルで決めたミキサーのフェーダー位置は、ライブ中にもわりと動かすタイプですが、基本的な各パートの音量バランスが整っていれば、自然と音圧感は出てくるものだと思います。それらの基本バランスをとったうえで意識しているのは、キックはあくまでも点の役割を果たすようにして、ベースをクリアに力強く出せるかというところ。低音の聴こえ方は環境に左右されやすいので、そこをしっかりと作ることで、さらにバランス良く整えることができます」

先述したようにクリアかつバランスの良いサウンドを生み出す石川氏だが、そこには、同じモデルのマイクで収音するスタイルや、モニターの角度づけなど、ライブハウスという環境に基づいたベーシックなテクニックに裏付けされている。またライブハウスでのエンジニアリングは、技術に加えてコミュニケーション能力が重要だと氏は説明する。

「僕にとってライブハウスでのエンジニアリングは、人と人のつながりが大切だと思っています。大きなホールと違ってライブハウスは機材を含めて限られた空間ですから、時と場合によっては100%の力が出せないときもある。そのなかでいかに良いパフォーマンスを引き出せるかは、メンバーと一対一でのやりとりから生まれるものです。ツアーで訪れるライブハウスは毎日違いますから、空間の大小はもちろん、ステージが暑いときも寒いときもある。そういった状況でメンバーのメンタル面を含めて、どうやってコントロールするかというのも大事ですね」

実際にどうアーティストをコントロールするのかと聞くと「これはもう経験値でしかない」と石川氏は言う。長年に渡ってライブハウスでのPAエンジニアリングを経験すれば、そのぶん各地方のライブハウスの音響特性などを把握できる。そういった実地経験がアーティストとの信頼関係を生んでいく。

「ミュージシャンはリハーサルと本番の音の変化に敏感。そういったときに自分がすでにライブハウスの特性を理解していれば、例えばリハで音が回り気味だから音を補正してほしい言われた際に、最終的に本番でお客さんが入ったときに良い音響になるからこのままで大丈夫ですって言えます。自分の経験値をどこまでアーティストに伝えられるかが大事ですね。そういう意味ではライブハウスでのエンジニアリングは機材をコントロールする技能よりも、口を使ったコミュニケーション能力のほうが、今は大切だと思っています。大げさに言うと、アーティストに暗示をかけられるかどうか、このあたりはやっぱり経験による部分が大きいですね」

「ライブPAにとって、ハウリングや音のカブリは永遠のテーマ」と言う氏だが、これに関してはSHUREのマイクの取り扱い説明書にその基本があるとも最後に語ってくれた。「例えばBETA 58Aのようなスーパーカーディオイドのマイクは、90°の角度でウェッジモニターを設置するように推奨しています。僕もこれを常に守っていますよ」

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ライブ中のステージ写真。ボーカルの伊藤フミオの後ろにホーンセクションが並び、その左右にベース、ギター、奥にはドラムというのがKEMURIのメンバーの立ち位置だ。

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マイクケーブルを手に巻きつけるのがフミオのスタイル。豊かな声量に加えて、繊細なマイクコントロールも彼の持ち味だ。愛用のマイクはBETA 58A

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田中幸彦のギターアンプROLAND JC-120にはSM57を2本セット

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JC-120に加えてもうひとつのギターアンプであるMESA/BOOGIE Dual Rectifierの上部にはワイヤレス受信機のUR4Sをセット。

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すべてのギターにはワイヤレスUR1送信機をセット

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津田紀昭のベースアンプの上にはUR4Sがマウントされている

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バスドラムのなかにはバウンダリーマイクであるBETA 91Aをセット

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平谷庄至のバスドラムにはBETA 52Aを設置

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ドラムコーラスにはコンパクトなBETA 56Aをセット

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スネアドラムにはトップ、バックともにBETA 57Aをチョイス

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伊藤フミオのボーカルマイクはBETA 58Aを使用

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KEMURIの要でもある3管編成のホーン隊のマイクには、すべてBETA 58Aを用いる

KEMURI ステージセッティング図

KEMURI ステージセッティング図

【製品ページ】

SM57
SM58
BETA 52A
BETA 56A
BETA 57A
BETA 58A
BETA 91A
UR4S
UR1

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