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By ShureJapan |  Comment(s)

アーティストとエンジニア
鬼束ちひろ、佐々木健太朗インタビュー

取材・文:伊藤大輔
写真:堀田芳香

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 今回紹介する佐々木健太朗氏は、女性シンガーソングライターである鬼束ちひろのライブサウンドを手掛けるPAエンジニアだ。2016年の4月と7月に行われた鬼束のコンサート「TIGERLILY」ではSHUREのマイクが多く使用された。今回の7月のコンサートより、鬼束のボーカルマイクにSHURE KSM8を採用。小編成のアコースティックアンサンブルとともに素晴らしい歌声を披露した。ここでは佐々木氏に加えて鬼束にも同席してもらい、ボーカリストとエンジニアの関係性、KSM8を選んだ理由と魅力についてを中心に、7月22日の大阪サンケイホールブリーゼ公演時の機材の写真を交えながら見ていきたい。

 佐々木氏はこれまでに、渋谷La. mamaや下北沢GARAGEといったライブハウスで経験を積んできた。もともとレコーディングエンジニアに興味を持って音響専門学校へ入学したが、La. mamaでアルバイトするうちにライブPAに魅了され、PAエンジニアを目指すようになったという。氏がこれまで手掛けたアーティストの名前を聞いていると、ロック畑で育ったエンジニアという印象もあるが、自身のエンジニアのスタイルについて問うと、「特にこだわりはない」と言う。だが、近年は女性ボーカルを手掛けることが多くなったそうだ。
 鬼束との出会いはおよそ2年前、リハーサル現場でのエンジニアリングがきっかけだったと言う。「(鬼束を)シャイな人」だという佐々木氏は、リハーサルを重ねながら彼女とコミュニケーションを取りながら、歌いやすい環境を模索していったという。「鬼束さんは最初、自分が思っていることをなかなか口に出せなかったりしていて。それに、歌うモードに入ると休憩なしに一気に歌うんです。だからその前後にコミュニケーションを取る必要がありました」と語る。その一方で鬼束は、佐々木氏のことをこう語る。
「私から見ると(佐々木)健太朗君はマルチな人。技術もあって、とても話しやすい。最近はスタジオに入ったら、真っ先に健太朗君に“今日の私の声はどう?”って聞くようにしています。それに今回は、私にピッタリのSHUREのマイク(KSM8)も持ってきてくれた。おかげで、歌いやすい“贅沢な環境”を作ってもらっています」ボーカリストの声の調子は、日によって刻々と変化する。それに対する佐々木氏の的確なアドバイスが信頼を得ていったのだろう。
 7月22日の大阪公演は、鬼束が始めてSHURE KSM8を使用したライブであった。佐々木氏は鬼束のボーカルマイクの選定には「10数本のモデルをテストした」と言う。「鬼束さんはハンドマイクで歌うし、ライブパフォーマンス中にウェッジモニターにけっこう近づくんです。ですから、ハウリングに強くてハンドノイズが少ない特性が必要です。それと、鬼束さんの声はマイクを通すと“タ行”の音を強く感じるので、吹かれに弱いものも合いません。そういった条件のもと、SHURE SM58、BETA 58A、BETA 57A、BETA 87A、KSM9など、他社のものも含め、いろんなモデルをテストして、最終的にKSM8を選びました。」
 これらに加えて、歌い手である鬼束がマイクに求めるのが“重量感”。「私はマイクを持って歌うから、歌の邪魔をしないことが一番大事。マイクに求めるのは重すぎず軽すぎないっていう重量感です。SHURE KSM8はそれをクリアしてくれました」と、言うように、音が良くても重量感がしっくりこないものは、選定リストから外されていったという。また、マイクの音質に関して、鬼束は全面的に佐々木氏の耳を信用しているが、佐々木氏は彼女の声質にあったマイクの音色について「彼女がボーカルモニターから欲している音を作りやすいモデルが、僕にとっては扱いやすいマイクですね」と付け加えた。

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 今回のライブで、実際に鬼束のボーカルに使用して佐々木氏はどんな印象を持ったのだろう? 「良い意味でこちらの期待を裏切ってくれた」と、KSM8を使用しての感想を語る。「SHURE SM58やSM57の武骨さと全然違うキャラクターで、ハイエンドと低域の空気感がすごく綺麗に出る印象でした。それと、KSM8は2枚のダイアフラムがあるので、特にハンドマイクで歌うボーカリストにとっては、近接効果が少ないのも良かった点です。それと同時にハウリングに強いので、例えばウェッジモニターから20cmくらいの位置で鬼束さんが歌ったときに力強さを出すには、これまで卓で少々強引に補正をかける必要があったのですが、KSM8はそんなときでも自然に出せました」
 鬼束のボーカルに加えて、ピアノとチェロというシンプルなアコースティック編成であった大阪公演。本公演で使用されたのはSHUREのマイクは、鬼束のKSM8以外にも、ピアノにKSM44A、KSM141×2、KSM8、チェロのアンビエント用にKSM44Aという計5本のSHUREのKSMシリーズを使用した。「同じメーカーのマイクで揃えると音のスピード感が分かりやすくなる」と、今回のマイクのセレクトについて佐々木氏は説明する。

「KSMのマイクは共通して音のスピード感が早いですね。特にピアノの富樫さんはとてもダイナミックな演奏をするので、その勢いにのってくるようなマイクがいいなと思っていました。ピアノはKSM8をボトムに立ててみたら、とても良い結果が得られたんですよね。そのときにやっぱりこのマイク、いいなって思いました」さらに鬼束も「ピアノにSHUREのマイクを使うようになって、すごく綺麗に聴こえるようになった」と付け加えてくれた。

 ピアノとボーカルだけという、ミニマムな編成でのライブが多い鬼束にとって、ボーカルマイクはとても重要な存在だ。「私はモニターの音のリバーブ感をとても気にするのですが、SHUREのマイクはそういうときでもちゃんと聴こえてくれる」と、鬼束はKSM8を評価する。「彼女はけっこう深めのリバーブをかけたモニターが好みなので、センターはうすめにかけて歌の点を聴いてもらい、サイドフィルにはしっかりとかけて雰囲気を作っていきます。彼女が会場のなかで歌っているようなそんなイメージですね」
 佐々木氏曰く彼女の現場は「(編成がシンプルなぶん)ごまかしがきかない」というが、だからこそアーティストである鬼束との信頼関係が欠かせないのだろう。「私が何かでしくじったときは私の責任だけど、そんなときも健太朗君はいつもパーフェクトに乗り切ってくれる。編成がシンプルになるほど頼りにしています」と鬼束は言う。「鬼束さんは常に100%というタイプではなく、たまに80%になったりもするし、そこから急に120%になる……そこがすごいところでもあって。でも、120%のときは僕のほうで何かしらの処理をするという次元ではないんです。だからコンプレッサーはそんなにかけていないし、できるだけ彼女のダイナミックさを感じて欲しいと思っています」
 「SHUREのマイクはロゴもカッコイイですね。私はブラックのモデルが好き。シルバーは私から見ると、ちょっとお祭りっぽい(笑)」と鬼束は言うが、ボーカリストにとってマイクは楽器のようなもの。ルックスが好きかどうかというのも大事な要因と言えるだろう。最後に佐々木氏がこう締めてくれた。
 「マイクってレコーディング用であるなら、どんなルックスでもいいですが、人前に出るステージでボーカルが持つマイクって、やっぱり見た目もカッコよくないとダメだって思うんです。その点でもKSM8は僕たちが求めていたボーカルマイクの条件にピッタリでした」

_MG_2130ピアノのアンビエンスにはSHURE KSM44Aを使用。指向性は単一を選択していた。

_MG_2137ハンマーのアタックを収音するためにはKSM141を使用

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_MG_2140ピアノの全景写真。写真右手にはKSM141で弦の鳴りを捉えていた

_MG_2149ピアノのボトムにはKSM8をセット。他のKSMシリーズもテストしたがKSM8がもっとも良い音色であったそう

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_MG_2175チェロのアンビエンス用にはSHURE KSM44Aがセットされていた

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【鬼束ちひろ:プロフィール】
chihiroonitsuka

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( おにつか ちひろ /Onitsuka Chihiro) シンガー・ソングライター

1980年10月30日生まれ(35歳)

2000年2月発売CDシングル「シャイン」でデビュー。同年リリースの「月光」がロングヒットを記録。1stアルバム「インソムニア」がオリコンチャート初登場第1位 ミリオンセールスを記録、その後『日本ゴールドディスク大賞 / ロックアルバムオブジイヤー』を受賞。2001年発売CDシングル「眩暈」で第43回日本レコード大賞作詞賞を受賞。2016年現在に至るまで、22枚のシングル(配信のみ1曲)6枚のオリジナルアルバムを制作(ベスト盤/カバー盤/bnnを除く)TVドラマ・劇場版「TRICK」の主題歌をはじめ、映画・ゲーム・ドラマ・CMなど多方面に楽曲提供。活動休止期間やバンド名義の活動を挟みつつ2015年より個人名義『鬼束ちひろ』としてFC限定シングルや 歌手『花岡なつみ』へ『夏の罪』を楽曲提供(ドラマ『エイジハラスメント』主題歌)活動の幅を広げつつ2016年4月に2年振りの東京公演2日間を完売。
http://www.onitsuka-chihiro.jp
 
【佐々木健太朗:プロフィール】
sasakisama

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音響専門学校に通いながら、渋谷La.mamaでアシスタントとして働き始める。その後は、下北沢GARAGEなど、ライブハウスの専属PAエンジニアの経験を積んで独立。現在では鬼束ちひろのほか、9mm Parabellum Bulletのモニターエンジニアをはじめ、HOWL BE QUIETなどのライブサウンドを手掛けている。

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